配当可能利益の資本組入れ : 安達司法書士.comブログ

2008年03月22日

配当可能利益の資本組入れ

当ブログは資格試験受験生の方にもご覧いただいているようなので、あえて苦言を申し上げるならば、司法書士、弁護士、税理士等の専門職は、合格後も勉強をし続けなければなりません。専門職として必要な知識の更新は、ゴールがないだけに資格試験合格のための勉強よりしんどいかもしれません。


例えば、当方が顧客から、『会社の資本金を増やす必要に迫られているのですが、手持ちの資金がありません。これまでの繰越利益を資本金に振り替えたいのですが…』と質問を受けたとします。これに対して、『定時株主総会で利益処分案の承認を得て、配当可能利益を資本に組み入れればよいでしょう。』と回答したとすれば、専門職として不勉強のそしりを免れないでしょう。


会社法では、旧商法の「利益の配当」から「剰余金の配当」に用語が変わっただけでなく、株主総会の決議があれば期中何回でも配当することが可能となりました。


ただ、「資本と利益の区別」を重視する趣旨から(計算規則48条1項参照)、利益準備金やその他利益剰余金(繰越利益)を資本に組み入れることができなくなりました。


一方で、商業登記法第69条は、利益準備金やその他利益剰余金の資本組入れを認めています。しかし、手続法の前に実体法があるので、商業登記法は会社法の委任を受けた会社計算規則に反することはできません(平成18年3月31日民商第782号民事局長通達65頁参照)。


それでは、もう配当可能利益を増資の原資に充てることはできないのでしょうか。これに関しては、いったん株主に金銭配当したうえで、源泉徴収後の資金(配当額の80%)を新株式と引換えに払い込んでもらうことにより可能です。


話が新株発行に及びましたので、非公開会社の株主割当増資について少々触れておきます。


  • 旧商法時代に設立された会社の募集事項及び株主割当て関連事項の決定は、取締役会の決議によって定めることができる旨の定款の定めがあるとみなされていることから(整備法76条3項)、取締役会の決議によることとなります(会社202条3項2号)。登記の申請書には、定款の添付が必要です(商登規61条1項)。
  • 株主の変動がほとんどない会社においては、基準日(割当日)を定めないで手続を行うこともできます(会社124条1項参照)。なお、基準日を定めない場合は、払込期日時点の株主に割り当てるということになります。
  • 募集事項等の株主に対する通知は、申込期日の2週間前に行う必要がありますが(会社202条4項)、この2週間の通知期間は、株主全員の同意があれば短縮できます(昭和54年11月6日民四第5692号民事局第四課長回答参照)。その場合、登記の申請書には、株主全員の期間短縮同意書の添付が必要です(商登46条1項)。
  • 株主割当ての場合、会社法第204条第1項の割当て決議は必要ありません。第202条第1項の決議の時点で「申込みをすることにより当該株式会社の募集株式の割当てを受ける権利」を与えており、申込期日までに申込みをしない株主は、その権利を失うことになります(会社204条4項)。

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2009年04月14日追記



本年4月1日から会社計算規則が一部改正され、利益準備金又はその他利益剰余金を資本に組入れることが可能になりました(計算規則25条1項(旧48条1項))。詳細は、会社法施行規則、会社計算規則等の一部を改正する省令の施行に伴う商業登記事務の取扱いについて(通達)(平成21年3月27日法務省民商第765号)をご覧ください。


なお、「資本金の額の計上に関する証明書」(商登法80条4号、商登規則61条5項)は、様式が変更されていますので注意が必要です。



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