自己株式の処分 : 安達司法書士.comブログ

2010年09月09日

自己株式の処分

先日、『自己株式の取得事由を定めている会社法155条に「無償取得」がありません。自己株式の無償取得を実行しても法的に問題ないのでしょうか』との質問を受けました(そういえば155条って意識して読んだことがなかったなぁ…。


早速155条を見てみると、確かに「無償」の文言はどこにもありません。しかし、同条13号に「前各号に掲げる場合のほか、法務省令で定める場合」と書かれており、これを受けて会社法施行規則27条1号に「当該株式会社の株式を無償で取得する場合」とあります。これまで何度か、減資との絡みで自己株式の無償取得及び消却事案を受託していますが、実務上すっかり定着しているだけに、無償取得の根拠条文など考えたこともありませんでした。反省です。


さて、今回はその「自己株式の取得」ではなく、「自己株式の処分」についてです。会社法の下では、自己株式の処分であれ、新株式の発行であれ、出資希望者に対して割り当てる株式は「募集株式」として区別なく扱われ、手続きも「募集株式の発行」として一本化されました。募集事項の決定は、非公開会社の場合には株主総会の特別決議が必要とされており、公開会社の場合には取締役会の決定に委ねられています。参考までに、以下に関係条項と議案例を掲げます。


−会社法(抜粋)−

(募集事項の決定)

第199条  株式会社は、その発行する株式又はその処分する自己株式を引き受ける者の募集をしようとするときは、その都度、募集株式(当該募集に応じてこれらの株式の引受けの申込みをした者に対して割り当てる株式をいう。以下この節において同じ。)について次に掲げる事項を定めなければならない。

   (一部省略)

    2 前項各号に掲げる事項(以下この節において「募集事項」という。)の決定は、株主総会の決議によらなければならない。

(公開会社における募集事項の決定の特則)

第201条  第199条第3項に規定する場合(有利発行)を除き、公開会社における同条第2項の規定の適用については、同項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。この場合においては、前条(募集事項の決定の委任)の規定は、適用しない。(注) 本項に括弧書き追記

−議 案 例−

   議案 自己株式の処分の件

  議長は、下記の要領で自己株式を処分したい旨を述べ、その理由を詳細に説明し、その賛否を議場に諮ったところ、満場一致をもって原案どおり承認可決した。

           記

1 処分株式数   100株

2 処分の価額   1株につき金1万2000円

3 処分価額の総額 金120万円

4 払込期日    平成22年9月29日

5 株式の処分先  〇〇に全株を割り当て、総数引受契約によって行う。

6 払込取扱場所  (所在地)大阪市中央区谷町1丁目2番3号

         (名 称)株式会社浪速銀行 中央支店


最後に、自己株式の処分による会計上の処理について簡単に触れておきます。そもそも、自己株式は実質的に出資を払い戻したことになるので、貸借対照表の株主資本にマイナス計上されます。例えば、1株1万円で100株取得した場合、株主資本に「自己株式 △100万円」と記載されます。これを1株1万2000円、総額120万円で処分したとします。この場合、自己株式は当然0円となり、処分によって発生した利益20万円(「自己株式処分差益」といいます)は「その他資本剰余金」に計上されます。


このように自己株式の取得・処分によっては資本金の額は変動しないので、登記の必要はありません。久し振りに司法書士らしい記事でした(笑)

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