2011年08月11日
医療法人の理事がいない!?
今回は、先日受託した医療法人の理事長の変更登記についてお送りします。本件は、既に任期満了により退任した理事長の変更登記ですが、株式会社の後任取締役の選任手続と異なり、医療法人の後任理事の選任手続は厄介です。というのも、医療法は、会社法の権利義務承継規定(346①)と同様の規定を設けておらず、この医療法人は理事が欠けた状態となっているからです。
かような場合、仮理事の選任を監督庁に申し立て、選任された仮理事が後任理事を選任するのが原則です(医療法46条の4⑤)。しかし、仮理事の選任を待つことができないような急迫の事情がある場合には、「善処義務」を定めた民法第654条の趣旨に照らし、退任した理事は、後任理事の選任をすることができるとされています(平成18年7月10日最高裁第二小法廷判決参照)。
この判決に対応すべく、登記実務では、添付書類の一部として急迫の事情がある旨の記載がされている社員総会議事録等を提出すれば、受理する扱いとなっています(平成19年1月11日付け法務省民商第31号民事局長回答参照)。参考までに、以下にその記載例を掲げます。
−社員総会議事録(抜粋)−
1 議長選任の経過
定刻に至り司会者<前理事長>開会を宣し、当法人の社員総会は、理事の任期が満了し、理事が社員総会を招集することができないが、本日の社員総会は、仮理事の選任を待つことができない急迫の事情があるため、すなわち、仮理事選任手続を了するまで社員総会において理事の選任ができない状態が続くとすれば、当法人はもとより、当法人が開設している診療所の多数の患者その他の第三者に著しい支障及び不利益が生ずるおそれが顕著であるため、<前理事長>が招集し、開催したこと並びに定款所定数を満たしたので有効に成立した旨を告げ、議長の選任方法を諮ったところ、満場一致をもって<前理事長>が議長に選任された。続いて、議長より挨拶の後、議案の審議に入った。
1 議事の経過の要領及び議案別決議の結果
第1号議案 役員任期満了による改選の件
(以下、省略)
2016年09月15日追記
医療法の一部を改正する法律の一部が、本年9月1日に施行されました。
本記事のテーマに関係するところ(ポイント)
- 理事の権利義務承継に関する規定を新設(法46条の5の3①)
理事の任期は従前どおり上限2年(法46条の5⑨)
- 1に伴い、理事が欠けた場合における仮理事の選任の制度は廃止
- 理事長が欠けた場合についても、理事の権利義務承継規定を準用(法46条の6の2③)
これで、理事の後任者が選任されないまま2年を経過した場合の問題点が解消されます。なお、理事長について権利義務承継に関する規定が設けられたことから、医療法人については、平成19年1月11日付け法務省民商第31号民事局長回答における取扱いの適用はなくなりました(平成28年9月1日付け法務省民商第132号通知参照)。
ランキングに参加中…クリックをお願いします.